atelier HIBARI

May

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街の喧噪の隙間から可愛い鳥のさえずりとピアノの音色が聞こえてきます。窓の外の蔦の葉はクリーム色の壁を伝いこの数週間ですくすくと成長しました。

あっという間に1ヶ月が経過したパリでの生活。これをあと11回繰り返すと帰国なのだなと、今からまだ来たばかりのパリを恋しく思っています。4月は静かに観想的な生活をと思っていましたが、貧乏性なのでしょう、なかなかそうもいかず忙しなくちょこちょこと歩き回っていました。

日本で予め調べておいた版画工房をいくつか見学させて頂いたり、美術館を訪れたり、私が滞在するパリ国際芸術都市(通称:シテデザール)で毎日のように開かれているオープンスタジオやコンサートに足を運んだり、月1回開かれるパーティーに参加したり、レジデント向けに開講されているフランス語教室に出席したりしました。

「フランス人は理解していても英語で話してくれないよ」とは遠い昔のことのようで、シテデザールの中はもちろん、街の中でもみな快く英語で対応してくれます。ここがパリの中心地であり、観光地かつ外国人の多く住む街だからかもしれませんが、それだけではないような気がします。2003年、EUがニース条約によりますます一体化した頃、夏のひとときを一緒に暮らしていたペネロペ・クスルに似た美しいイタリア人の女の子が目を丸くしながら「EUはアメリカのような大きなひとつの国のようになるのよ」と、達者な英語で話してくれたことを思い出しました。あの頃幼少期を過ごした若者が、今大人になり彼女のような思いを持ちながら自由に英語を話しているのだと感じます。英語の国イギリスがEUを抜けても。週末はいよいよフランス大統領選のクライマックスです。EUはアメリカのような大きなひとつの国のようになるのでしょうか?

フランス語教室のクラスメイトは、様々な国から来ている美術家や音楽家です。ドイツ、スペイン、イタリア、スイス、デンマーク、イギリス、ラトビア、セルビアそして日本。この教室は中〜上級の会話クラスで、美術、展覧会、文学、政治について自由に話しをします。辞書を使用してはいけない、通訳をしてはいけない、というきまりがあるので、私はただただ3時間の対訳無しのスピードラーニングを聞き続けています。なかなか厳しいです、全く理解できません。英語だけで今のところ問題なく生活できていますが、訪れた国の言語を学ぶことはその土地の文化を知ることですし、なによりここで暮らすアーティスとのことを知ることができるのでしばらく通ってみようと思います。

フランス語教室のクラスメイトを見ていると、18世紀、父とともにオーストリアからイギリス、フランス、イタリアを巡業したモーツアルト、20世紀、パリで活躍していたスペイン生まれのミロやピカソのように、ヨーロッパ人が自由に言葉を操り、国境を越え活動の場を広げてきた様子が想起されます。ヨーロッパ人にとって3カ国語を話すことは珍しくありません。母国語と英語は標準装備で、教養としてのフランス語、それに加えスペイン語やイタリア語のようなラテン語系の言語をあとひとつほど話せる人が多くいます。彼らと過ごす中で、ヨーロッパの真の教養に触れる瞬間があります。大げさな物言いをせず、静かに、心地よく、美しい言葉で自分の想いや考えを伝え、またそのような対話の場が普通の生活の中にあります。このような環境に身を置けることに喜びを感じ「ここはアーティスにとってユートピアのようなところだね」と、友人たちとよく話しています。

5月は少しずつ版画制作を開始しようと思っています。訪れた版画工房のひとつに席をおいて、私にとっては新しい銅版画の技法を学ぶ予定です。また、リサーチとしていくつか教会を巡るうちに美しい体験をしました。ミサにも何度か参列しています。パリでアーティストとして暮らす人々にも出会いました。また別の機会に改めてご報告できたらと思います。

2017.05.03.10:30頃


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by atelierHIBARI | 2017-05-22 19:34 | Paris